2022年の株式市場は年を通して金利が急上昇し、リーマン・ショック以来の長い下落相場となりましたが、その様子を見てみると、グロース株(成長株)が著しくやられているのが分かります。
下のグラフは米国株の代表指数である、ダウ平均株価とNASDAQの2022年の推移を示したものです。
工業株(最近の銘柄構成はそれほど工業感が無いですが・・・)のダウ平均が年初来-10%ぐらいなのに対し、グロース株のNASDAQが-30%ぐらい下落しています。
データ出所:https://finance.yahoo.com/
本記事では、金利上昇がグロース株にどういった影響を与えたのかを、やや理論的な観点から見ていきます。
市場動向のレポートとかで見かけるような、一般的な通説もこんな感じじゃないかと思います。
株価は企業の収益と国債リターンの比較で決まる
まずは伝統的な、株価算出のベースとなる公式を見ていきましょう。
株価の理論値はこのような形で計算します。
”・・・”のところは、ずっと続いていくという意味ですが、どのくらいの期間を計算範囲に含めるのかは、アナリストやファンド・マネージャーによって全く異なります。
分子の”1年後にもらえる株の配当金”は、グロース株の場合は配当金が出ない、言い換えると、出た利益を翌年の事業に投資することも多いので、代わりに”税引き前利益”とか”利益 ー 期待リターン”で置き換えるようなパターンもあります。
この辺も、企業の収益の出方やアナリストによって何を使うかが異なります。
分母の”xx年間で得られる国債のリターン”は、10年債とかの最終利回りを参照します。
最終利回りが3%だと、”1年間で得られる国債のリターン”の部分は1.03、”2年間で得られる国債のリターン(累積)”の部分は、2年分の国債のリターンになるので1.03×1.03=1.06(6%ぐらい)となります。
3年間だと1.03×1.03×1.03=1.09(9%ぐらい)になります。
こうして分子の株の配当金と、分母の国債リターンを毎年分比較していくことで、株価の理論値を計算します。
分子の利益が低下すると株価は下落、分母の国債リターンが上昇すると株価は下落、という形になります。
国債利回りが上昇するとグロース株の魅力が落ちる
米国10年債を見てみると、2022年は1.6%ぐらいだった最終利回りが、4%近くまで上昇しました。
下のデータ出所:https://fred.stlouisfed.org/series/DGS10
前項では株の配当(もしくは何らかの利益に指標)と国債のリターンを比較することで株価が決まると述べましたが、グロース株の場合、”今はまだ利益が出ていないが今後伸びる”という期待を元に計算がなされるのが、2022年にグロース株が大きく劣後した要因のひとつになっています。
グロース株の企業は、今は利益が出ていない状態から将来の利益を予想しないといけないので、ちょっとしたニュースや市況の影響で利益予想が大きくブレてしまいます。
資金調達のベースとなる10年債の利回りが上昇すると、投資家の間で「借入金の負担が大きくなって、今後の利益成長に支障が出るんじゃね?」という懸念が高まり、利益予想が引き下げられます。
これは、前項の公式の分子が低下する要因になります。
10年債は、破たんのリスクが低い”無リスク資産”なので、この利回りが4%まで上昇することは、”低リスクで毎年4%のリターンが得られる”ということになります。
そうすると、投資家の中で「グロース株の将来本当に出るかどうかわからない利益に期待するよりも、こないだまで1.6%しかなかった利回りが4%まで上がった国債の方が魅力的なのでは?」という層が出てきます。
これは、前項の公式の分母が上昇する要因になります。
以上のような形で、2022年のように10年債が急上昇するシーンでは、①利益予想の低下、②国債利回りの上昇、の挟み撃ちを食らって、グロース株は大幅に下落します。
最後に注意点
ざっくりと理論的な側面からグロース株の下落を考えてみましたが、本記事の内容が下落を100%完全に説明できるわけではないことに注意してください。
下落相場での株式市場のリスク回避度は「溺死が怖くて風呂に入れない」と揶揄されるほどであり、売りが売りを呼ぶような感情的な要因というのも多くあったのではと思います。
また、近年では、株と債券以外にも様々な投資資産が存在しており、株と債券の対比が万能の法則になりえるとも思えません。
市場を動かしているファンド・マネージャーの多くは株担当、債券担当と別れており、株の魅力が落ちたから債券に投資するということは基本的に許されていませんので、株と債券の関係が短期的な動向を説明できることは少ないかもしれません。
中長期的には、ファンドに運用を任せている最終顧客の、保険会社や年金基金などの機関投資家が株と債券の配分をいじることで、そういう関係が出ることはあるかもしれません。
(バリュー株も同じですが)グロース株においては、株を買う前に、成長シナリオや経営陣がどうやって投資家にリターンを返していくつもりなのかをしっかり検討して、購入後はシナリオがまだ生きているかどうかと、もっと良い似た企業が出てきていないかを常にチェックすることが大事であって、下がっているから売る、上がっているから利益確定売りするというような、株価での判断は基本的に無いと思っています。
(あくまでも個人的な投資方針の意見です。この判断は投資家によって千差万別で、色々な判断の投資家が無数にいるから市場は効率的になっているので、どれが良い悪いというものでもないと思っています)
下がっている株は本当に売るべき株なのかを見直す良い機会ですので、色々と調べてみてはいかがでしょうか。
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