資産の分散が大事だという話はよく聞く話ですが、本記事では、最も分散効果が効いてほしい市場暴落時に効果が出ないという落とし穴について紹介します。
運用の最前線で戦っている人間であっても、この点を理解していないケースは多いため、注意が必要です。
市場暴落時は分散が効かない
株、債券、リート、ヘッジファンドなどたくさんの投資資産が存在し、それらに幅広く投資することでポートフォリオの分散を図るというのは基本中の基本です。
しかし、数々の研究で、株式市場の暴落時には分散がかえって悪影響を及ぼす場合があることが知られています。
数十年前からこの手の指摘は多くありましたが、特に注目されるようになったのは2008年のリーマンショックの時でした。
例えば、マーティー・レイボウィッツとアンソニー・ボバが2009年に論文“Diversification Performance and Stress-Betas”で、
先進国株、新興国株、米国債、リートに分散したポートフォリオと、米国株60%/米国債40%のポートフォリオの2008年のリターンを比較すると、前者の分散されたポートフォリオが、後者よりも9%リターンが悪化した
という、分散の常識を覆す研究結果を発表しました。
また、同年に、デイビッド・チュア、マーク・クリッツマン、セバスチャン・ペイジらによって書かれた論文“The Myth of Diversification”でも同様に、市場暴落時には各資産の相関が上昇することを指摘しています。
こうした分散投資の落とし穴の研究は、ここ20年で発表されたものが多く、実務の現場にはほとんど浸透していません。
個人的な印象ですが、研究が実務の現場に広がり始めるまでに、理論(数理モデル)の研究は50~70年、実証(数値で実際に確認するタイプの)研究は20~30年ほどかかっているような気がします。
暴落時はすべてが同時に売られる
市場で暴落が起きた時、大口の機関投資家が現金を集めるために売りやすい資産から売り始めていくということが発生します。
レバレッジをかけていた投資家が追加証拠金を払う必要が出る、下落が各社のロスカット水準(売却するようあらかじめ決めていた水準)に達する、といったことが起きるので、取引量が多く売りやすい、国債や大型株などから売られ始めます。
当然、その他の資産もすぐに売られ始めるため、株とその他の資産の相関は70~90%まで急上昇します。
暴落時には期待していた分散効果が発揮されない点には注意が必要です。
分散効果は意味がない?
では分散が全く効果がないかというと、そういうわけではなく、分散が重要という結論は変わりません。
暴落が終わったあとは、下落した資産が順次回復していきます。
最も早く回復するのは国債で、数日程度で回復する場合が多いです。
株が暴落している際には国債が上昇するということになっていますが、こういった分析では月次データを使うことが多いので結果に出ていないだけで、日次では国債も一時的に下落する点には注意が必要です。
株と国債は短期的には変な動きをすることもありますが、長期では相関が低くなる傾向があります。
そのメカニズムについてはこちらの記事をご覧ください。
知っておきたいのは、資産によって回復するスピードが異なり、回復する順番もその時々で違うことです。
国債が最速なのは不動で、生活必需品のような常に安定して売れ続ける商品を販売する企業の株も回復が早い傾向があります。
その他の資産は、暴落の原因に依存します。
上で挙げた、分散ポートフォリオが米国株60%/米国債40%よりも9%下落したという研究は、2008年には米国以外の株とリートの戻りが遅かったというだけで、この研究結果だけを鵜吞みにして「じゃあ米国株と米国債だけでいいじゃん」という判断を下すのは短絡的です。
2022年も久々に世界の株式市場が暴落し、S&P 500は20%下落しましたが、日経平均株価は5%の下落で済みました。
2020~2021年に米国株(特にIT企業)が最も上昇していたため、反動を最も受けたのも米国株(特にIT企業)という結果になり、急上昇にあやかろうとNASDAQに集中投資した人は痛手を負ったでしょう。
2022年の米国株の下落については、以下の記事で解説しています。
資産運用では、分散したポートフォリオを維持することが極めて重要だということは変わりません。
ただし、暴落時には、すべての資産の相関が上昇し、分散効果が消えるというのは、知っておいた方が良いでしょう。
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