以前の記事で、インデックス投資が負ける理由と、アクティブ運用が勝つために必要な条件を挙げました。
①運用報酬が極力低め
②ポートフォリオの売買回転率が低い
③個別銘柄の投資機会を捉えている(保有銘柄数が少ない)
詳しくは前回の記事をご覧ください。
本記事では、実際にこれらの条件を満たし、インデックスに勝っており、今後も再現性の高そうなアクティブ運用戦略を2つ紹介したいと思います。
※以下の内容は、これまで勝っていることがこれからも勝ち続ける根拠にはならないこと、特定の銘柄を推奨しているものではないことにくれぐれもご注意ください。
バイ・アンド・ホールド
バイ・アンド・ホールドとは
バイ・アンド・ホールドは、厳選した少数企業の株式をずっと持ち続けているだけの投資方針です。
一見、ただそれだけ?という感じもしますが、この投資方針においては、市場がどのように変動していて、保有中の銘柄の株価がどれだけ落ちていても、企業の成長シナリオが維持されている限り、わずかなポジション調整以外の売買は許されません。
実は、これを忠実に実行できる強靭な精神力と信念を持ったファンド・マネージャーは世の中にそう多くありません。
自ら投資を経験したことがある人ほど、このことはよくわかります。
逆に、投資経験が浅いとか、投資先のリサーチが甘い場合は、不安に駆られて、機動的な対応を取ってしまうことになります。
伝説の投資家で、オークツリー・キャピタルの創業者であるハワード・マークスも以下のように述べています
When you find an investment with the potential to compound over a long period, one of the hardest things is to be patient and maintain your position as long as doing so is warranted based on the prospective return and risk.
Memo from Haward Marks: Liquidity
Investors can easily be moved to sell by news, emotion, the fact that they’ve made a lot of money to date, or the excitement of a new, seemingly more promising idea.
When you look at the chart for something that’s gone up and to the right for 20 years, think about all the times a holder would have had to convince himself not to sell.
訳すと以下のような感じです。
”長期的に大きく上昇する可能性を秘めた投資先を見つけられたとしても、ポジションを維持し、耐え続けることは非常に難しいものです。リスクとリターンが想定した通りになっていたとしてもです。
投資家は、ニュースや感情、これまでの成功体験、より有望と思えるアイデアへの興奮によって、いとも容易く売りに走ってしまうのです。
20年間右肩上がりのチャートを見た時、売らなくて良いと自分を納得させてきた時のことを思い出してください。”
伝説の投資家をもってして難しいと言わしめる投資方針が、バイ・アンド・ホールドなのです。
この投資方針は、売らなくて良いと確信するためのリサーチが大変なので運用報酬は高めですが、売買回転率が低いため追加コストがかからず、銘柄数も絞っていることが多いので、個別銘柄のリターンがそのまま投資のリターンにつながります。
代表的な運用会社①モルガン・スタンレー
この戦略で有名なのは、モルガン・スタンレーのグローバル・フランチャイズ戦略です。
元々この戦略をモルガン・スタンレーで始めたファンド・マネージャーは、20年前にシダー・ロック・キャピタルという運用会社を設立して独立しましたが、2022年に引退してファンドを閉じてしまったようなので、現存している最も伝統的な(?)運用会社はモルガン・スタンレーになろうかと思います。
この戦略のポイントは、フリーキャッシュフローがすでに高くて、その成長率も高いような企業を厳選することにあります。
フリーキャッシュフローとは、簡単に言うと、最終的に余ったお金のことで、このお金を投資家に配当しても良いし、負債を返しても良いし、来期の事業に投資しても良い、という選択の余地が広い資金です。
そのため保有銘柄を見ると、表面的には、ただ単に大企業に投資して売買せずに持っているだけで、サボっているようにしか見えませんが、売上の安定性は十分か、競合よりも優位に立っているか、サプライチェーンは万全か、経営陣は財務のコントロールが完璧か、今後の成長シナリオがしっかり書けているか、経営者の経営哲学は頑強で成功の確度が高いと言えるか、などなど、ありとあらゆる側面から”売らなくても大丈夫か”のチェックを毎日徹底的に行う必要があるので、サボるどころか、めちゃくちゃ大変です。
下の表はこれまでの運用成績です。(出所:モーニングスター公表データを元に作成)
注目ポイントは下段の1~10年のところで、いずれも年間平均のリターンが指数を上回っています。
代表的な運用会社②ファンド・スミス
バイ・アンド・ホールドでもうひとつ有名な運用会社が、ファンド・スミスです。
こちらも祖シダー・ロック・キャピタルの運用に憧れて、2010年からこの戦略1本のみを運用してきたストロングスタイルの運用会社で、その運用実績はインデックスを上回っています。
下の表はその運用実績です(出所:Fundsmithウェブサイト公表データを元に作成)。
スタイル・プレミア
4つのファクター
スタイルというのは、簡単に言うと、大型・小型とか、グロース・バリューとかのことで、プレミア(premia)はプレミアム(premium)の複数形です。
スタイルのことは、リスク・ファクターとも呼ばれます。
2人の経済学者ユージン・ファーマとケネス・フレンチが1993年に発表した論文“Common risk factors in the returns on stocks and bonds“で
市場ベータが高く、小型で、割安な銘柄ほどリターンが高くなる傾向がある
ということを示しました。
彼らはこの発見で、2013年にノーベル経済学賞を受賞しています。
市場ベータとは、市場の上昇トレンドに銘柄がどれだけついていけるかを示したものです。
株式市場は、極論を言えば、放っておけば長期で勝手に上昇していく傾向があるので、この市場全体の傾向についていく、もしくは、市場の傾向よりも急な上昇傾向を持っている、というのが市場ベータが高いということの意味になります。
サイズ(小型)のファクターですが、小型企業の方が大企業よりも伸びしろが大きいので、期待リターンが高くなりやすい傾向があります。
このファクターは時価総額の大小で判断されます。
割安(バリュー)のファクターについては、いま市場の注目から外れていて、投資家から見落とされているので、注目が戻った時に株価が上昇しやすい傾向があります。
このファクターは、発行時の株価÷今の株価(PBRの逆数)が高いものを割安と判断します。
最近では、収益性のファクターというのも入ってきています。
収益率が高い方が、株価が上がりやすいということですね。
これらを合わせて、4(フォー)ファクター・モデルと呼び、意味合いとしては
収益率が高い(収益性)ような小型企業(サイズ)で、今は市場から見落とされている(割安)けど上昇相場でちゃんと市場についていく(市場ベータ)株は上昇しやすい傾向がある
ということになります。
これを完全に満たす企業が本当にあるのなら、ぜひとも投資したいものですが、実際にはそんな完璧な企業はありませんので、ある程度の折り合いをつけてポートフォリオを構成していくことになります。
代表的な運用会社:DFA
DFA(ディメンショナル・ファンド・アドバイザーズ)は上記の学術研究のモデルを、忠実に実行し続ける運用を行っています。
この戦略はルールに従ってポーフォリオに銘柄をはめていくので、市場や銘柄を分析したりするのにデータ購入代や人件費がそれほどかからず、運用報酬が低めになっています。0.2%とかです。
学術研究をそのままパクろうとしても、案外上手くポートフォリオが作れなかったり、売買のコストが高くなってリターンが損なわれるため、意外と真似できないところがDFAの強みでもあります。
パフォーマンスを見てみましょう。
(出所:ディメンショナルのウェブサイト公表データを元に作成)
下段の運用状況を見てみますと、楽勝・常勝という感じではありませんが、長期ではちゃんと勝っている傾向があるようで、研究の有効性が示されています。
最後に
本記事では、バイ・アンド・ホールドとスタイル・プレミアの2種類の投資戦略を紹介しました。
今回紹介した運用会社以外にも、日本株で同じことをやっているところもあったり、特定のスター選手が運用しているファンドが市場に勝ち続けている場合もありますので、ぜひ探してみてください。
(大人の事情により、一般の投資家が投資可能で具体的な投資信託の名前とかは書きにくいので、ご理解をお願いします・・・)
過去のリターンだけで良し悪しを選ぶのではなく、運用方針や運用哲学に納得や共感ができて、しかもその有効性が過去のリターンとして表れている、というような筋の通ったファンドに投資すると、相場の波の中で(ファンドで勝手に対処してくれるので)一喜一憂する必要が無くなり、結果として長期で保有しやすくなるので、最終的に投資家の資産形成の役に立ってくれると思います。
どのアプローチが最もリターンが出るかよりも、どのアプローチが自分の趣味に合っているかで判断するのが良いのでしょうね。
※本記事で紹介した内容は、理解を促すためものであって宣伝を意図したものではなく、将来のリターンを確保するものでもありませんので、ご注意ください。
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