投資中は様々な誘惑やミスが起こり、損失につながることがとても頻繁にあります。
この記事では、投資家が陥りやすい先入観(カッコイイので以下では”バイアス”と呼びます)の1つである、認知バイアスを紹介します。
この手の先入観は、行動経済学や行動ファイナンスと呼ばれる研究分野で、近年(ここ20年ぐらい?)非常にホットな話題となっています。
投資でリターンを得るには、ミスをしないことが要求されますので、こうしたバイアスを認識し、冷静になることはとても重要です。
1.代表性バイアス
代表性バイアスとは
代表性バイアスとは、新しく得た情報を、自分の過去の経験に従ってジャンル分けして理解しようとしてしまうことです。
新しく得た情報がこれまでに経験したことのない情報であっても、過去の経験の枠組みの中で処理しようとしてしまうことで問題が発生します。
このままでは抽象的過ぎてよくわかりませんので、もう少し具体的な例を考えましょう。
例①:基準値の無視
基準値の無視とは、信じたいものを信じ過ぎてしまい、事実を見落としてしまうことです。
投資で言えば、とあるグロース株の株価が大きく上昇していることが分かった時に、「グロース株が途中で下落することなく、ずっと上昇し続ける確率は極めて低い」というよく知られた事実を忘れてしまい、投資してしまうような感じです。
2020年とか2021年に投資を始めた方は、2022年にこのバイアスの恐ろしさを、身をもって体験したのではないでしょうか。
例②:標本数の無視
標本数の無視とは、少数の体験談などを聞いて、それを一般的な事実と認識してしまうことです。
親戚が株で失敗したとか、株への投資を始めて1~2年の間全然リターンが出なかった時に、統計的に株は長年持っていればちゃんとリターンを返してくれる資産にもかかわらず、「株はギャンブルだ」といった判断を下してしまうことです。
代表性バイアスから逃れるためには
投資する上でこのバイアスを回避するためには、統計的・学術的な事実をしっかり認識し、投資先の分散を徹底することが必要になります。
(平均では)短期売買は儲からず、逆に、長期で分散投資しておけばリターンはちゃんと出るというのが学術的な見解ですので、「どうやらこれが良いらしい」というような新しい情報を得ても、投資行動を一貫し続けることで、このバイアスから逃れることが可能になります。
2.コントロール幻想バイアス
コントロール幻想バイアスとは
コントロール幻想バイアスは、自分が選んだものは他者が選んだものよりも優れていると感じてしまう現象です。
よく言われている例としては、宝くじを引くときに、機械に番号を選ばせるよりも、自分で番号を選んだ方が当たるような気がしてしまうアレです。
株の銘柄や投資信託の選定で、この現象が起こることはよくあります。
というか、ファンドマネージャーのほぼ100%は(自覚の有無にかかわらず)このバイアスにどっぷりハマっており、統計(世の中の平均)よりも自分の目利きの方が素晴らしいという自信を持っています。
短期売買でリターンを稼げると思ってしまうのも、このバイアスに依るところがあります。
コントロール幻想バイアスから逃れるためには
このバイアスから逃れるためには、自らが自信過剰に陥っている状態を認識し、「投資で自分がどうこうできることはほとんど無い」という現実と向き合うことで、冷静になる必要があります。
3.保守性バイアス
保守性バイアスとは
保守性バイアスとは、古い認識に囚われてしまい、新しいものや情報への適応に失敗してしまうことです。
このバイアスは、経験が豊富な人ほど失敗体験や成功体験が蓄積しているため、新しい情報への適応が遅れてしまいます。
また、過去長期にわたってこういう事実が成り立つ、といった学術研究などもこのバイアスに囚われてしまう可能性があり、原因と結果の因果関係を検証せずに「研究で正しいことが示されているからこれからも正しい」と考えるのは短絡的な判断になりかねませんので、注意が必要です。
保守性バイアスから逃れるためには
このバイアスから逃れるためには、新しい情報を得た時に、よく内容を吟味することが重要です。
これまでの実績やプライドを捨てて、過去の経験や過去の研究が新しい情報とどう噛み合うのかをしっかり検討し、新しい情報を的確に取り込むことが大切です。
4.確証バイアス
確証バイアスとは
確証バイアスとは、自分の信じたいものに反する情報を軽視・無視してしまい、自分の信じたいものに賛成する情報だけに注意が向いてしまうことです。
投資で言えば、ある企業が気に入ってしまった場合、自分に好都合な情報ばかり集めてしまい、不都合な事実を無視してしまうような現象です。
ある企業の株が下がっている時に、「製品は良いし、ツイッターではファンも沢山いるので、株価はじきに戻るはずだ」と考えて損切りに失敗してしまうようなことはよく起こります。
確証バイアスから逃れるためには
確証バイアスから逃れるためには、反対意見を積極的に取り入れることが必要になります。
確証バイアスは非常に強力で、対処には多大な苦痛を伴いますが、投資で失敗しないためにはどこかでこのバイアスと向き合う必要があります。
5.後知恵バイアス
後知恵バイアスとは
後知恵バイアスとは、過去に起こった出来事は事前に予見できたはずだ、と考えてしまうことです。
投資で言えば、「2022年のインフレは予想できたことだし、市場の暴落を予見して対処できたはずだ」といった風に、後から考えてしまうことです。
実際に事が発生する直前というのは、良い情報と悪い情報の両方が常に同程度存在しており、そのどちらが発生するかを事前に察知するのは非常に困難です。
資産運用を人に任せっきりなタイプの人ほど、このバイアスにハマり、文句が多くなるイメージがあります。
「プロなんだから予想して対処できたはずでしょ!?」とかよく言われますが、そんなのは無理なので、何が起きても影響を小さくするためにポートフォリオを組んでいるということをよく忘れられます。
また、運用する側でも、自分なら予見できたと考える人は多く、ファンドマネージャーは大抵、銘柄選択に謎の自信を持っている人がやっています。
後知恵バイアスを避けるためには
後知恵バイアスを避けるためには、未来の予測は不可能であるということを認識し、過去の実績は将来を保証しないという事実と向き合う必要があります。
そうすると、長期投資をすればリターンが出るという事実も当然怪しいのでは?と思われるかもしれませんが、その認識は正解です。
投資のリターンは、いつどうなるか分からない不確実なものに投資し続けることに対する報酬ですから、長期投資なら安全というのは極論なので注意が必要です。
6.フレーミング効果
フレーミング効果とは
フレーミング効果とは、内容が同じにもかかわらず表現の仕方で感じ方が変化してしまう現象のことです。
損するような感じ方をさせるのがコツで、例えば、1万円の物を9000円で売りたいときに、”早く予約すれば1000円割引になる”と表現よりも、”予約が遅くなると1000円損になる”と表現した方が、人を駆り立てることができる、といった感じです。
投資の文脈では、初心者がどのくらいのリスクを取れるのかをいくつかの質問からチェックのときに、質問文の内容によって、本人のリスク耐性に関する回答が変化してしまうことが挙げられます。
また、人間は得よりも損に影響されやすいので、損失への恐怖から冷静な判断が行えなくなることがあります。
フレーミング効果を避けるためには
このバイアスを避けるためには、既に発生している利益や損失を無視し、投資に対する期待値を常に一定に保つことが必要になります。
7.アンカリング・調整バイアス
アンカリング・調整バイアスとは
アンカリング・調整バイアスとは、直前に得た情報が判断基準になり、結論が事前情報に引っ張られて歪んでしまうことです。
この現象は投資においても頻繁に発生します。
ある株を買おうと思っていたところで、買う直前に株価が100円から105円に上昇してしまった時に、「今買ったらもったいない」と感じる感覚です。
長期で投資しして数十パーセントというリターンを得ようと思っているにも関わらず、100円という情報を基準にしてしまったがために、この目先の5%に意思決定が歪んでしまいます。
売る時も同様で、損切りしようと思ったとこから株価が下がってしまうと、なんかもったいない感じがして、結局損切りできないということはよく起こります。
アンカリング・バイアスを避けるためには
このバイアスを避けるためには、自分の感覚が直前に得た情報に引っ張られてしまっていることを自覚し、本来の投資目的に立ち返ることが大切です。
もともとどうして投資しようと思っていたのか、に立ち返ることで冷静になることができます。
8.利用可能性バイアス
利用可能性バイアスとは
利用可能性バイアスとは、自分が知っていること、思い出しやすいことをより重視してしまうことです。
前日に何を食べたか、何の映画を見たか、どんな広告を見かけたか、などによっても意思決定が歪んでしまうので、なかなか恐ろしいものです。
利用可能性バイアスは主に4種類あります。
(日本語名が見当たらず、自分で訳していますので、一般的な訳と違っていたらすみません)
例①:取得可能性(Retrievability)
覚えている出来事や情報をより重視してしまうのが取得可能性バイアスで、例えば、肌感覚で感じている事実よりも、メディアでよく見かける情報に意思決定が引っ張られてしまうことです。
例②:分類(Categorization)
良く知っているジャンルの情報をより重視してしまうのが分類バイアスで、ゴルフが趣味の人であれば、シーリングのプロ選手よりも著名なプロゴルファーの方が思い出しやすい、といった現象のことです。
例③:経験不足(Narrow range of experience)
自分の実体験をより重視してしまうのが経験不足バイアスです。
自分の過去の経験を一般的な事実と勘違いしてしまいがちで、自分の職場にはこういうタイプの人が多いので、この業界全体にはこういうタイプの人が多いんだろう、とか感じてしまう現象です。
例④:共鳴(Resonance)
共鳴バイアスは、嫌いなものよりも好きなものをより重視してしまうことです。
嫌いなものを正当に評価するのは、結構覚悟のいることですよね。
利用可能性バイアスを避けるためには
これらのバイアスを避けるためには、好き嫌いの感情を意思決定から排除し、普段触れないような情報もしっかりと調べることが重要です。
前日に得た情報や少数のメディアから得た情報に頼らず、反対意見を取り入れたり、本来の投資目的に立ち返る必要があります。
9.メンタル・アカウンティング
メンタル・アカウンティングとは
メンタル・アカウンティングとは、お金の入手の仕方によって、そのお金の価値観が変わってしまうことです。
例えば、ボーナスや宝くじで得た臨時収入は、毎月の月給で得たお金よりも気分的に使いやすい感じがするアレで、退職金は使いづらかったり、旅行資金は使い易かったりもします。
1万円は1万円でしかないのですが、臨時収入で得た1万円と、節約して貯めた1万円はだいぶ違いますよね。
このバイアスのせいで、ポートフォリオの中身がぐちゃぐちゃになって資産全体の管理が損なわれる可能性があったり、ポートフォリオ全体ではなく組入銘柄単位で投資の良し悪しを判断してしまったりすることがあります。
また、
メンタル・アカウンティングを避けるためには
メンタル・アカウンティングが悪なのかは議論の余地がだいぶありますが、そのことを一旦横に置いておくとすれば、ポートフォリオを1つの物として、中身1つ1つではなく全体で評価することでこのバイアスを抑制することができます。
メンタル・アカウンティングとしてよく見られるのは、夫婦で口座を分けて投資信託に投資しているけれども、投資信託の主な投資対象が両者で丸被りしていて、家計全体のポートフォリオとしてみた時に分散が足りていないような現象です。
夫婦で口座を分けて投資しているので、2つの口座は全く関係ない独立した存在のように思えますが、家計全体のポートフォリオで見た時に「これほぼ米国じゃん」みたいになっているケースは多いので注意が必要です。
認知バイアスからは逃げられない
これまでに9つの認知バイアスを紹介しましたが、最も重要なことは、これらの認知バイアスは人間の本能的な部分が反応してしまい、自覚していても影響を受けるので、自らが認知バイアスに陥っていることを認識して冷静に対応することです。
初めにも書いた通り、投資で大切なのは失敗しないことですので、認知バイアスを理解することは投資で成功するためのキーポイントになります。
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