現代の資産運用では、株と債券を混ぜてリスクとリターンを調整し、ポートフォリオを構築することが主流となっていますが、実はこの方法は、株と債券の価格変動の関連性が低い(もしくは逆方向に動く)ことを前提としています。
2022年はこの低相関の関係が崩壊し相関が上昇したため、もう低相関の時代は戻ってこない(=今のポートフォリオ構築はもう機能しない)のでは?という話を最近よく聞くので、本記事では、株と債券の相関関係について紹介します。
株と債券は低い相関
株と債券は相関が低い理由は、株と債券の資産的な性格が逆だから、と言われています。
株は価格が変化しやすく、いつ企業が倒産するかもわからないので、リスクの高い資産である一方、債券(国債)は発行体が国なので、国が倒産することはさすがに無いでしょ?ということから、リスクの低い資産と認識されています。
この両極端の安全性が、株と債券の低相関につながっていると言われています。
短期的には、金融ショックなどが起こると、投資家は現金確保のために株も債券(国債)も何もかも売却するので両方とも一時的に下落することもあります。
しかし、国債は安全性の高さから、数日で一気に買い戻されるので、長期的には、この低相関の関係は成り立っていると言えるでしょう。
急激なインフレ時は株と債券の相関が上昇する
ただし、インフレが急な時には、株と債券の相関が高まってしまいます。
なぜかというと、中央銀行が利上げを行い、インフレを鎮めようとするからです。
インフレを治めようと中央銀行が急速な利上げを行うと、金利上昇でまず債券の価格が下落します。
このメカニズムは以下の記事を参照ください。
金利が急激に上昇すると、株価にも下落圧力がかかります。
こちらも、詳しい仕組みは別の記事を参照ください。
こうして、インフレ抑制のための利上げで、株も債券も下落するので、相関が高まってしまうという現象が起こります。
株と債券の低相関は、下落相場で機能してくれないと意味がないので、インフレには弱いということになります。
(上昇相場で株と債券の低相関が機能しても、それは、どちらかの上昇速度が遅いという意味なので、メリットはありません)
株と債券が逆相関し始めたのはここ20年
株と債券の相関がゼロ未満、いわゆる逆相関になったのは、たまたまとの指摘もあります。
高いデータ分析能力を生かしてインデックスを上回る成長株運用を行っている、アライアンス・バーンスタインは、昨今の逆相関に依存した運用スタイルに警笛を鳴らしています。
https://www.alliancebernstein.co.jp/knowledge/archives/705
このレポートの中では、ここ20年が特殊だったので、分散についてもっと色々な方法を検討すべきであるということを述べています。
株と債券が逆相関したのはなぜ?
ここ20年で逆相関するようになった背景としては、①投資理論の発達と、②コンピューターの発達が、大きく寄与したのではないかと思っています。
投資理論の発達
現代の投資理論における株価の理論価格は、将来の配当金と債券の利回り(リスク・フリー・レート)から算出されます。
この詳細については別の記事で解説しています。
この株価の評価モデルの原型は1938年に出版された経済学者ジョン・ウィリアムズの著書“The Theory of Investment Value”で登場したと言われています。
その後、1950年代にマイロン・ゴードンが割引配当モデル(配当金と債券利回りで株価を算出するモデル)の基礎を築いたことで、債券の利回りを用いて株価の割高・割安の判定が簡単にできるようになりました。
ただし、この当時は、そもそも投資に理論があるという考え自体が定着していない時代でもありました。
投資理論の祖、ハリー・マーコウィッツは1952年に出版した博士論文“Portfolio Selection”での功績をたたえられ、1990年にノーベル経済学賞を受賞しましたが、この博士論文の審査では、ノーベル賞経済学者ミルトン・フリードマンに、経済学ではないので博士号は与えられないと言われました(最終的には認められて博士号を取得しました)。
デヴィッド・ドッドとベンジャミン・グレアムが、ファンダメンタルズ分析(財務情報を分析して適正価格を探る手法)のバイブル“証券分析”の初版を1934年に出版したりしましたが、投資理論が現場に多く取り入れられるようになるまでには、1960年代以降のCAPMの登場や、ウォーレン・バフェットなどファンダメンタルズ分析派の成功を待たなければなりません。
米国では1980年代に双子の赤字問題で国力そのものが疑われていたことがあったり、かつての国債利回りは10%弱の水準だったなど、国債が株と対を成す安全資産という認識が、それほど浸透していなかったこともあるかもしれません。
いずれにせよ、1980~90年代に証券会社に勤めていた人々からは、理論的な分析を現場で行っていた人などほとんどいないという話を聞くこともあります。
コンピューターの発達
投資理論に基づく株価の理論価格は、将来の配当金と債券の利回りを、比の形で毎期分を手作業でチマチマ計算する必要がありますから、コンピューターの普及以前は、かなりの手間になったでしょう。
少なくとも、毎日計算し、それを投資判断に活かしていたという人は少数だったのではないかと推察します。
それが、1980年代ごろから徐々に普及し始め、1987年にはマイクロソフトのエクセルが登場し、2000年に入る頃に誰もがパソコンを扱えるようになりました。
パソコンで金融市場の情報を瞬時に処理できるようになったため、ヘッジファンドのブームが到来したり、1987年10月19日に起こった、ダウ平均株価が一晩で22.6%下落する事件(ブラックマンデー)が、コンピューターの自動売買が原因だったのでは?という話もよく聞きます。
こうして、誰もが株の理論価格を簡単に算出できるようになったことも背景にあると考えています。
株と債券の相関はどうなる?
株と債券の相関がどうなるかは、正直なところ、よくわかりませんが、少なくとも相関が高い状態が続くということは考えにくいと思っています。
というのも、①市場で大金を動かしているプロの投資家は、人に納得してもらえる根拠に基づいた方法で運用せねばならず、そうすると投資理論に一定程度依存しなければならないこと、②株価の理論的な評価が債券との対比でなされるということ、③2022年はインフレが悪さをしているだけであること、の3点から、株と債券の低相関の崩壊は杞憂だろうと考えています。
ただし、万一に備えるのがポートフォリオの本質ですので、可能性が指摘されている以上、リスク分散も検討するのが筋であろうと思います。
ただし、残念なことに、個人投資家には、備える方法がほとんどありません。
為替や貴金属はよくわからない値動きをしますし、非伝統的資産とかオルタナティブ投資とか呼ばれるものについては、まだまだ胡散臭い金融商品がゴロゴロ転がっています。
何とかならないんでしょうかねぇ・・・。
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