世の中にはリスクを○○%以内に抑えることを目指します、というリスク抑制型ファンドというものがありますが、この手のファンドに投資する際の注意点について考えたいと思います。
リスクを再考する
リスク抑制型ファンドは、投資に慣れていない個人投資家に大人気の商品です。
投資する目的は、日々の価格変動を抑えたい、とか、安定した運用を期待したい、というのが最も多い理由じゃないかと思いますが、もう少し考えてみてください。
それ、日々の価格変動が嫌なのではなくて、元本割れが嫌なのでは?
そういった観点から考えると、リスクというのは、日々の時価変動だけでなく、数年に一度の大幅下落のパターンも考える必要があります。
リスク抑制型運用は大きい一発に弱い
リスク抑制型ファンドは、年間の(価格の振れ幅の意味での)リスクを○○%に抑えるよう運用します、というような目標が設定されています。
そのため、平常時には値動きが比較的小さい債券をメインにポートフォリオを構成するので、日々の時価変動の抑制には役に立ちます。
あまり増えないが減りもしない、というような感じです。
では、稀に起こる下落相場ではどうなるかというと、リスク抑制型ファンドは投資行動が事後対応になるため、たいていの場合は元本割れのまま終わることになります。
2022年が、まさにそういった出来事が起きた年で、リスク抑制型ファンドは軒並み-10~-15%といった様でした。
リスク抑制型ファンドは、米国のダウ平均株価の-6.9%よりも悪かったのです。
何が起きたかは、こちらの記事をご覧ください。
暴落する際に(価格の振れ幅の意味での)リスクが目標の○○%を大幅に超過しますので、ファンドマネージャーは暴落した資産を売却して、資産配分の大半を現金に換え、(価格の振れ幅の意味での)リスクを抑制しようとします。
その後、嵐が過ぎ去って、市場が反発し、市場が落ち着いてきた段階で、ファンドマネージャーは抱えていた現金を再び投資に回しますので、投資家は反発の恩恵をほとんど得られず、最後には下落の影響だけが残ることになります。
もともと低リターン運用だったことから、リターンの蓄積がほとんど無いので、そんな状態で下落すれば、たいていは元本割れで終わるでしょう。
この”底値で売って高値で買い戻す”ような一連の初心者ムーブは、明らかに投資家の損失につながっていますが、”(価格の振れ幅の意味での)リスクを抑制する”というファンドの運用ルールにおいては、一切の違反にあたりません。
もし株で高リスクを取り続けていれば、一時的に暴落したとしても、暴落前のリターンの蓄積がクッションになりますし、元本割れに突入したとしても、もしかしたら市場が回復する時に、下落した分もある程度取り戻せたかもしれません。
ですが、リスク抑制型運用では、下落のクッションになるほどのリターンが出ることはほとんどないので、マイナスで終わる可能性は高いでしょう。
リスクを抑え過ぎることが、かえってリターンを失いかねないというのは投資の恐ろしいところで、どんな金融資産であっても、暴落の可能性からは逃れられないことには注意が必要です。
安全資産、安定運用というものは、この金融の世界には存在しません。
運用する側は言い訳がしやすい
なんでこのような運用が存在するかと言うと、運用する側と運用してもらう側のニーズがマッチする売れる商品だからです。
運用してもらう側のニーズというのは”リスクを抑えたい”もしくは”安定運用したい”ということでした。
上で述べた通り、本質的にはリスクは抑えられていないのですが、運用に慣れていない個人投資家からすれば、そこのリスクの違いはほとんどわかりませんから、ニーズが満たされると勘違いした結果、人気は出るのでしょう。
運用する側のニーズというのは、”失敗したくない”というものと、”とにかく売って儲けたい”というものです。
先ほど述べた通り、下落中には(価格の振れ幅の意味での)リスクを抑制しようと正しい(?)対応を尽くしましたし、そもそも投資は自己責任ですから、ファンドマネージャーや運用している会社に責任は無い、ということになります。
先の展開を想定して事前にあれこれポートフォリオの組み方を考える必要が無く、何か起こっても、事後的に対応すれば良いだけなので、運用自体もめちゃくちゃ楽です。
運用が楽で、責任が無くて、売れるのであれば、投資家のことなど一切考えずただ儲けたい企業にとって、これほど魅力的な商品は無いでしょう。
そうしたニーズがマッチした結果、こういったファンドが誕生して、バカ売れし、投資家が損をする、という構図が完成します。
あまり過激なことを言うのは趣味ではありませんが、この手の投資家のミスリードを誘った運用を行って、投資家に損失の責任をすべて押し付けるのは、プロとして恥ずべき行為だと思っています。
下落しても継続して投資していれば元に戻る可能性の高いポートフォリオを組み、リスクやリターンのことを正しく説明し、理解した上でリスクを取ってもらい、暴落時は共に難局を乗り越え、最終的にはしっかりとリターンも享受してもらう、というのが正しいあるべき姿であり、どうしてもそこを理解できない客には、投資をさせないというのが、プロとして本来あるべき姿でしょう。
本記事を執筆している2023年初頭では、資産所得倍増計画なる国策のもと、各社が個人投資家の獲得に奔走していますが、”売れる商品”ではなく、”真に必要な商品”がたくさん供給されるような世の中に早くなってほしいものです。
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