効率的市場仮説に基づく資産運用

投資に上手い・下手があるのか?という話になると、必ず出てくるのが”効率的市場仮説”ですが、これが実際に運用とどう関わってくるのかを、あまり深みに入り込まず、ザックリと簡単に紹介します。

すべてを語ろうとすると一冊の本になるので、ここでは大事そうな点だけ触れます。

効率的市場仮説とは

効率的市場仮説とは「世の中にはズバ抜けて頭の良い、数えきれないほどの大勢の人間がいて、株価の妥当性を日々検証し、株の売買を行っているので、割安・割高の銘柄など存在しているはずがない(存在しても一瞬で他の誰かが買うので、市場からそのような銘柄は無くなる)」という仮説です。
(注:これが常に成り立つかどうかは、細かいので、本記事では立ち入りません)

1974年にユージーン・ファーマが発表した論文“Efficient capital markets: A review of theory and empirical work.”でこの仮説が提唱されて以来、この仮説は猛烈な勢いで広まり、今では成り立たない反例が見つかっているものの、一時期は盲目的に信仰されるほどの人気を誇りました。

この主張を言い換えれば、「現在の株価は、現在分かっているあらゆる情報を取り込んだ結果決定された、妥当な価格である」ということになり、この効率的市場仮説に関する研究から、以下のことが分かっています。

①時価総額加重平均で配分比率を決定する市場指数にアクティブファンドが勝つのは不可能
②リターンの短期的な予測はできない
③長期的には、リターンもある程度の予測ができるかもしれない

これらを以下で解説していきます。

アクティブはインデックスに勝てない

「時価総額加重平均で配分比率を決定する市場指数にアクティブファンドが勝つのは不可能」ということをザックリと一言で言い換えれば、「アクティブ運用はインデックスに勝てない」ということになります。

しかし、この”インデックス”の方には、「時価総額加重平均で配分比率を決定するタイプのインデックス」という条件が付きます。

時価総額加重平均というのは、簡単に言えば、時価総額が高い企業の配分が多くなるポートフォリオの組み方です。

仮説に基づけば、”現在の株価は、現在分かっているあらゆる情報を元に決定された、最も妥当な価格”でしたから、この仮説に基づいて株が買われているのなら、最も質の高い企業が最も高い企業価値(=時価総額(現在の株価×発行株式数))になっているはずです。

そうなると、仮説に基づいてポートフォリオを組めば、時価総額の大きい順に銘柄が配分されているはずです。

こうした形で、市場で評価されている順番で配分比率を高くするポートフォリオの組み方を”時価総額加重平均”と呼びます。

TOPIXやS&P 500指数はこの方法で構成されており、日経平均やダウ平均はこの作りになっていません。

注意したいのは、

効率的市場仮説が成り立っているなら、時価総額加重平均が最適になっているはず

ということであって、時価総額加重平均が常に最適、ということを言っているわけではないことです。
そもそも効率的市場仮説が成り立っているかすら分かりませんので、時価総額加重平均が最強ということは断言できません。

このほかに機械的に配分を決定する方法もあり、日経平均のような株価が高い順に組み入れる方法や、すべての銘柄を同じ比率で組み入れる方法もありますが、これらが最適の条件を満たす可能性は極めて低いので、最もマシであろう配分方法は時価総額加重平均ということになろうかと思います。

他の決定方法に比べて、時価総額加重平均なら、一瞬ぐらいは最適になっている瞬間があるかもしれません。

短期的なリターン予測は不可能

仮説によれば、現在の株価は、現在利用可能なすべての情報から決定された、妥当な価格でした。

短期のリターン予測は、明日の株価が上がるかどうかを探る行為ですから、仮説が成り立っているとすれば、今分かっているすべての情報が利用されて株価が決まっている以上、将来の株価の期待値は現在の株価と全く同じになってしまうので、上がるか下がるかの判定が不可能ということになります。
(今わかっていない情報を使えば、インサイダー取引で捕まります)

これは、将来の株価の期待値が現在の株価と全く同じであることから、ランダムウォークとか、マルチンゲールとか言われることもあります。

上がるとも下がるとも言えないので、短期予想は不可能(意味がない)と言えます。

長期リターンはリスクプレミアムに従う

仮説に基づけば、株価の期待値は現在の株価と変わらないということを前節で述べましたが、そうすると、株は結局リターンが出ないのでは?という疑問が湧いてきますが、リスクプレミアムという性質が長期リターンの元になっていることが知られています。

リスクプレミアムというのは、リスクを取り続けた投資家に対して投資資産が返さなければならないリターン(報酬)のことです。
言い換えると、期待リターンのようなものです。

株で考えると、国と違って破産するリスクが付随している分、企業は投資家に対して高い報酬を出さなければならず、この報酬が不十分な場合には誰も株を買いませんから、リスクプレミアムが株価に対して妥当な水準になるまで株価は下落します。

この報酬というのは、業績の上昇を通じて、株価の上昇や配当の形で投資家に還元されます。

景気後退の可能性が出てきて投資家がビビっている時には、このリスクプレミアムも上昇します。
他の奴らがビビって投資しない中、自分は投資しているんだから、高い報酬をもらって然るべきだよね?という形でリスクプレミアムが上昇します。
逆に、株のブームのような時には、このリスクプレミアムは低下します。

最も簡単な計算方法は、【PERの逆数(益回り) ー 10年国債の利回り】です。
もうちょっと複雑なものだと、【PER成長率 + 利益成長率 + 配当利回り + インフレ率 ー 10年債利回り】というものだとか、色々なパターンがあります。

短期ではそんなもの無かったじゃん?短期をつなげたものが長期なんだから、長期でそんなプレミアムが出るのはおかしいじゃん?という疑問も湧くかもしれませんが、短期と長期は全くの別物と考えなければなりません。

学術的に短期間の分析を行うのは、そもそもデータ不足のため不可能です。

分析でしっかりとした結論を下すには、データが48~60か月分は欲しいと言われています。

テクニカル分析は短期の予測用に発明されたものですが、学術的な検証が不可能なため、研究の世界では、テクニカル分析は見たいものを見ているだけであり、理論としては無理があり過ぎるという認識になっています。

インデックス投資かスタイル投資が答え

研究の結果から示唆される運用手法は、低コストのインデックス投資か、スタイル投資のどちらかになろうかと思います。
(我こそはという投資方法が日々提唱されていますが、有効性が怪しく、数も多過ぎるので、ここでは無視します)

低コストのインデックス投資は読んで字のごとくであり、時価総額加重平均のインデックス投資が最もマシな銘柄の選び方なので、これを極力低コストで行う方法です。

スタイル投資は、以下の記事でも紹介していますが、リスクプレミアムの高い順にポートフォリオを構成していく手法です。

小型企業だったり、時価簿価比率が低いような企業はリスクが高いと考えられているので、高いリスクプレミアムが付いています。

こういうことで、巷で人気のインデックス投資で持ち続けるというのは、それなりに理にかなった方法であると言えるかもしれません。
実際には、持ち続けるところが難しいと言われていますが・・・。

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