金利が上がると債券価格が下がる仕組み

投資

本記事では金利が上昇(低下)すると持っている債券の価格が下落(上昇)するメカニズムを紹介します。
少し細かいところにも踏み込んでいくので、本題が気になる方は関係ないところを飛ばして見ていただければと思います。

社債は若干ややこしいので、ここでは、アメリカとかドイツのような、簡単に財政が破たんしそうに無い国の国債のイメージで読んでいただければと思います。

金利と利回りの違い

金利とは、債券を持っていることで定期的にもらえる金額を年率で表現したものです。

例えば、金利(利率)が1%付いている1万円の国債を1年間持っていると、100円(1万円の1%)をもらえる、という感じです。
実際は、年2回半年ごとに0.5%ずつもらったり、四半期ごとに0.25%ずつもらったりしますが、年間でトータル何%もらえるのかを表記するのがマナーになっています。

一方、利回りとは、その債券を償還まで保有し続けた時に、年間平均何%のリターンが得られるのかを表現したものです。
要するに、利回りとは期待リターンのことです。

この2つは似ているようで全然違いますが、投資のうえでは金利よりも利回りの方が圧倒的に重要です。

利回りと金利の違いは、金利が必ずしもリターンを意味しないことです。
もし額面1万円で金利5%の債券を1万円で買うことができれば、5%の金利=5%の利回りとなりますが、普通は1万円ピッタリで買うことはできず、10100円とか9900円とかで買うことになります。

仮に10100円で買ったとしましょう。
そうすると、毎年500円(5%)がもらえるわけですが、この債券が償還した時に返ってくる金額は額面の1万円になります。
1万100円を払って買い、金利500円をもらい、1万円の額面が返ってくると、500+10000-10100で、最終的にもらえた金額は400円(購入代1万100円の3.96%)と、金利よりも低いリターンになります。
逆に、9900円で買えば、金利500円、額面1万円で、600円(9900円の6.06%)になります。

債券については、途中でデフォルトしないなら、高い値段で買えばリターンが下がり、低い価格で買えばリターンが高くなります。

この「結局のところいくらもらえるの?」というのが利回りになります。
買う時点で利回りが何%かが分かれば、リターンがほぼ確定しますので、いつにいくら使いたいという資金使途がハッキリしている場合、債券は結構使いやすい資産クラスです。

毎年いくらの分配が欲しいというニーズがある場合には金利も気にする必要がありますが、いつまでにいくら用意したいとか、長期投資を考えている場合は、利回りだけ見ておけば十分でしょう。

注意したいのは、メディアや記事などで金利金利と言っているのは、だいたい利回りのことを指していることです。
金融に詳しくない人に対してメッセージを出す場合は、面倒なので利回りのことを金利と言うことも多いですから注意してください。
ここからは、金利と利回りを区別して書いていきます。

金利と利回りはどうやって決まる?

金利は発行体(債券を出して資金を集めたい国や企業)が決定するもので、利回りは市場で決定するものです

もう少し具体的には、市場には①中央銀行、②発行体、③投資家(市場)の3種類のプレイヤーがいて、この3者がワチャワチャすることで利回りが決定します。
金利と利回りがややこしいかもですので、利回りを”期待リターン”と読み替えても問題ありません。

まず、①中央銀行が市場の利回りの最低水準を決定します。
よくあるケースが、①中央銀行が、民間銀行間で1晩だけ融資が行われた場合の利回りを定めます。
銀行は国の保護が手厚く潰れにくい企業であり、しかも借金の期間が1晩だけなので、この借金は市場で最も安全な借金になりますから、借金の見返りである利回りも市場で最も低い水準になります。

①中央銀行が定めた1晩だけの利回りを参考に、②発行体(ここでは国としておきましょう)は10年とか20年とか長期債券の金利を決めて発行・販売します。
長期になりますと、国とはいえ破たんする可能性もゼロではありませんし、それ相応のリスクを伴うので、1晩だけの融資よりも高い金利を提示しないと誰も買ってくれません。

仮に、①中央銀行の定めた金利が0%、②発行体が発行した額面1万円の債券(簡単のため満期1年とします)の金利が1%だとしましょう。
③投資家(市場)は様々な情報から「これだけの利回りはほしい」という水準を持っており、この金利だと債券の価格はいくらが適当かと判断します。
③投資家(市場)が「あの国はちょっと先行きが危ないのに、金利の1%だけじゃリターンが足りないよね」と思っていたら、③投資家は当然1万円では買いたいと思いません。利回りが低すぎます。

1万円で売れないことが分かれば、②発行体はどうにか債券を売って資金調達しないと大変なことになりますので、③投資家(市場)が買ってくれる水準まで価格を引き下げます。

こうして②発行体と③投資家(市場)の交渉が繰り返され、利回りの落としどころが決定します。

②発行体が販売し終えた後は、市場にいる投資家同士の間で、利回り水準をもとに債券が取引されるようになります。

市場には様々な利回りを望む投資家が無数にいることで妥当な利回り水準が決定されますので、市場に投資家が少ない状況(金融危機とか)では一時的に利回りの妥当性が乱れることもありますが、中長期的には妥当になると考えられています。
(というか、コレを妥当とするという前提が無いと価格の判断ができませんので、暗黙の了解でこれを妥当とするのです)

世の中で何%くらいの利回りが妥当かの判断をできるようになると、実は、社債(個別企業の債券)、株やリートなど、あらゆる金融資産の価値の妥当性が検証できるようになります。

投資で騙されないためには市場の利回り水準の把握がカギ

世の中の平均的な利回りとして最も参照されるのは、10年物の国債(10年債)の利回りになりますので、これを基準に、妥当かどうかの判断ができます。
ただし、ピッタリ”妥当”とまでの判断には相当な熟練が必要なので、一般には”おかしくはない”ぐらいの判断をすることになるでしょう。

本記事の執筆時点、2022年12月末ごろの日本の10年債の利回りはだいたい0.4~0.5%です。
プロとして顧客に接する人であれば、主要国の10年債利回り水準を暗記した状態にしておくことが重要です。

で、金利10%の仕組債が目の前に現れたとしましょう。一見、めちゃくちゃ魅力的ですね。

ここで一旦冷静にならなければなりません。
次に考えるべきは、年間の期待リターンが0.5%の世の中で10%もお金がもらえるということなので、9.5%の差はどこから来ているのか?ということです。

ここで、信用スプレッド(上乗せ金利)という概念が重要になります。
先進国の国債の場合はほぼ安全と言えると思いますが、企業に関してはいつ倒産するかわかりませんので、企業が発行する債券に対して、投資家は破たんリスクの分だけ高い利回り(期待リターン)を要求します。
この個別企業に要求する利回りと国債の利回りの差のことを信用スプレッドを呼びます。

信用スプレッドを見れば、ほぼ安全である国債の利回りに対し、いま目の前にある債券がどれだけヤバいのかがザックリわかります。

日本の債券で代表的な債券指数はNOMURA-BPIで、信用スプレッドはTspd(bp)とか表記され、Tspdは国債に対する信用スプレッド(Treasury-spread)、1bp=0.01%を表します。
株のように一晩で数%動くものと異なり、債券は日々0.01~0.1(1~10bp)ぐらいしか変化しないことが多いので、特別な単位が設けられています。

信用スプレッドが0.4%とすると、9.5%もの差というのは、普通の企業よりも明らかに何らかのリスクが隠れていると考えられます。
①金融市場の何らかの欠陥を上手に捉えてるか、②株に近い性質が隠れているか、③単純にヤバい商品、のどれかになるでしょう。

非常に残念ですが、一般人に①の金融市場の何らかの欠陥を上手に捉えてる商品が出回ることは少ないです。
そういった美味しい投資は、投資金額の単位が10億円から始まる機関投資家を対象にすることが多く、100万~1000万円規模の個人投資家にいちいち説明して販売するのは営業費用が割にあわないからです。
ただし、投資アイデアとして面白いけども、市場規模が小さくて大金を流し込めないような場合もあり、そういった場合には個人投資家にお鉢が回ってくる可能性はあり得ます。

2022年に金融庁が、仕組債にかなりの圧力をかけていましたので、一部の個人投資家にも面白い投資商品が出てくると良いですね。

市場金利(利回り)が上がると債券価格が落ちる仕組み

前段が長くなりましたが本題に入りましょう。
いちいち”市場金利(利回り)”と書くのは大変なので、単に”市場利回り”と呼ぶことにします。

2022年のアメリカ国債の動向をイメージ例に、額面100円で金利0.5%の債券を持っているとします。
この債券の利回りは0.5%になります。

この状態で、中央銀行が市場利回りを4%まで引き上げたとしましょう。
2022年後半はまさにこんな感じでしたが、普通はここまでの利上げはしませんので、一体何があったのかは別の記事で紹介しています。

2022年の米国株式市場では何が起きた?
本記事では、2022年の株式・債券市場がなぜ下落したのか、事の発端の背景から紹介していきます。

中央銀行の定める市場利回りは、世の中に出回る債券利回りの最低水準ですから、これが4%まで上昇したということは、これから発行される債券もだいたい4%前後くらいの金利が付くことになります。

いま持っている債券の金利は0.5%なので、1万円投資したら50円毎年もらえるのに対し、次に発行される債券は1万円分持っていると毎年400円もらえることになります。

今持っている債券、かなり見劣りしていますよね?

ということで、現在世の中に出回っている債券の価格は下落します。
これが市場利回りが上昇すると債券価格が下落するメカニズムです。

仮に利回り10%の債券を持った状態で、市場利回りが0.5%から4%に上昇した場合でも、9.5%もあった利回り差が6%まで縮むので、お得感が減り、保有している債券の価格は下落します。

利回りが低下した場合は全く反対の動きをします。

持っている債券の価格が下落したらどうすればよい?

もし保有している債券の価格が下落しても、デフォルトの可能性が低いのであれば、そのまま持っていて大丈夫です。

投資した時点での利回り水準が最終的なリターンの目安になりますから、途中の価格変動を気にする必要はありません。

債券インデックスの投資信託に投資した場合でも、長期では、投資した時点での利回りに近いようなリターンが実現する傾向があるように思います。

ただ、待っていれば戻るといっても、何年ぐらいで戻るのかが気になりますよね?

そういう人のために、”デュレーション”という概念があります。
これは、市場利回りの上昇で下落した債券価格が、あと何年で元に戻るのかをザックリと示す指標になり、よほど変動金利型などの特殊な債券でない限りは算出することが可能です。
(計算は大変なので、そのうち専用の記事を設けたいと思います)

市場利回りの変動を抑える方法は?

市場利回りの変動(金利リスクと呼ばれます)を抑制するためには、変動金利型の債券に投資する、国債先物を空売りする、満期の短い債券に投資する、金利と利回りの高い債券に投資する、の4つの方法が考えられますが、残念ながら、完璧な方法は無く、金利リスクを抑制する代わりに何らかのリスクを負うか、期待リターンを下げることになります。

変動金利型の債券に投資する

変動金利型の代表的な債券は、バンクローン(レバレッジド・ローン)、非エージェンシー住宅担保証券など資産担保証券の一部になります。

このタイプの資産は、定期的に金利の見直しが行われるため、市場利回りの上昇に合わせて金利もあがりますから、価格はほとんど下落しません。
専門用語で言うと、デュレーションが短い資産になっています。

ただし、個別企業や個人の破たんリスクが付随することが多いため、

市場利回りが大きく上昇する
→企業や個人の金利負担が大きくなる
→破たんリスクが上昇する

という経路で価格が低下する可能性があります。

また、個人投資家はこのあたりの資産クラスへの投資方法が限定されていますので、個人投資家がこの方法で金利リスクを抑制するのは現実的ではないでしょう。

国債先物を空売りする

個別企業の社債の利回りは、

国債の利回り+信用スプレッド

で構成されており、国債の利回りの部分が市場利回り変動に反応してしまうので、ここを空売りして、利回りの構成を

信用スプレッド

のみにしてしまう方法が考えられます。

ただし、社債の残存年数に合わせてちょうど良い年限の国債先物の空売りをぶつけるのが非常に難しく、個人投資家にとっては現実的ではありません。

満期の短い債券に投資する

残存年数が短くなると、デュレーションも短くなりますので、市場利回りの変動を抑えられます。

その代わり、残存年数の短い債券は利回りも低くなります。

また、残存年数が短いので、償還して戻って来た資金を投資し直すことになりますが、その時にちょうどいい投資環境や商品があるとも限りません。
10年債は10年放っておけば期待リターンが安定しますが、1年債だとその時々で市場利回りが変動していますので、高い利回りで投資し直せるかもしれませんし、低い利回りでしか投資し直せないかもしれません。
こうした再投資リスクを負うことになります。

金利と利回りの高い債券に投資する

金利と利回りが高い債券として、高利回り(ハイ・イールド)債が挙げられます。

高利回り債は、市場利回りの変動による価格低下の要因よりも、定期的に貰える金利の方が高くなるケースが多いので、市場利回り変動への耐性が高くなる傾向があります。

ただし、高利回り債を発行する企業は、財務状況が必ずしも良くない(だから金利と利回りが高い)ので、バンクローン同様に

市場利回りが大きく上昇する
→企業の金利負担が大きくなる
→破たんリスクが上昇する

という経路で価格が低下する可能性があります。

市場利回りの変動はダラダラ付き合っていくのがベター

市場利回りには、好景気で上昇し、不景気で低下するサイクルがありますので、利回りが高いところで投資できればラッキー、ぐらいのイメージで投資するのがベターです。

理想的な利回りで投資できなくても、必要としている利回りで投資できていれば、後は難しいことを考えずにずっと持っていれば良いので、投資後に市場利回りが変動しても右往左往する必要はないでしょう。

無理にジタバタして銘柄を入れ替えたり、株と債券の比率を機動的にいじったりするのが一番良くないと個人的に思っています。

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