簡単な期待リターンの計算方法

投資

資産運用をするからには、貯めたい資産額の目標を決め、達成のためにどのくらいのリターンを目指す必要があるかを考えなければ、ポートフォリオを組めません。

本記事では、各資産に対してどのくらいのリターンを期待しても良いかを簡単に計算する方法を紹介します。

精度自体がすごく良いというものではありませんが、誰にでも簡単に計算できるのは大きなメリットです。

期待リターン計算の闇

まともな資産運用は普通、

①運用目的を決める
②必要な期待リターンを決める
③受け止められるリスクと期待リターンのバランスを調整する
④ポートフォリオの全体像を決める
⑤個別銘柄や投信を決める

という順番で決定します。
(みんなすぐに個別銘柄の良し悪しの議論をしたがりますが、まっとうな資産運用においては最後に決定されるものです)

運用目的が決定すると次は、年間平均で何%ぐらいのリターンを期待するかに入るのですが、

期待リターンの計算方法には、学術的な正解が(今のところ)存在していません。

投資初心者が資産運用にちゃんと取り組もうとすると、ステップ②でいきなりつまづいて終わるのです。

では、プロの現場ではどうやって期待リターンを計算しているかというと、たいていはそれっぽい数値を計算して、違和感の残る部分を山勘で修正しています。

それっぽい数値としては、第三者が計算した数値を利用するか、何らかの方法で計算を行います。

第三者が計算した数値は、コンサルなどの外部機関に期待リターンの計算を依頼する形になります。

個人投資家の強い味方としては、JPモルガン・アセット・マネジメントが期待リターンを公開しており、これを参考にしている人も多いでしょう。
URL: https://am.jpmorgan.com/jp/ja/asset-management/per/insights/portfolio-insights/ltcma/matrices/

もう一方の何らかの方法で計算するというのは、統計的に分析してみたり、過去の研究から使えそうな手法を参考にして計算したりします。

最後の山勘の修正の部分ですが、これは、各社が経験則で違和感を消しにいきます。
仮に、世界株の期待リターンが5%と計算されて出てきたら、この業界に長くいると「5%はなんか低くね?」というのが感覚で身についていますから、じゃあ7%にしよう、みたいな感じで最終的に微調整を加えているところが多いんじゃないかなぁという印象です。
この山勘部分の修正を一切行わない人も沢山いると思います。

共通しているのは、各社の期待リターンの計算方法が具体的に開示されることはありませんし、深くは聞かないのがこの業界のマナーになっていることです。

期待リターンは秘密のレシピであり、公開していること自体が非常に稀ですが、何かしらの期待リターンがないとポートフォリオが組めないので、この問題は何とかしなければなりません。

本記事では、感覚の部分を除いた、簡単に指標から計算できるものを紹介していきます。

株の期待リターンは益回り + インフレ

株価の期待リターンは、PER(株価収益率)の逆数にインフレ率を足すのが最も簡単でおすすめです。

PERの逆数は益回りとも呼ばれ、1÷PERで計算されます。

意味合いとしては、株価に対して何%の利益を出しているか、を表しているものになります。
配当利回り(配当÷株価)の、”配当”の部分を”1株当たりの利益”(EPS)に置き換えたもの、と言った方が通じやすい人も多いかもしれません。

これは、株の長期投資の大御所ジェレミー・シーゲルが、株のインフレ調整後リターンの目安としてよく使用しているものです。

インフレ調整後(インフレ控除後)のリターンの目安なので、これに長期のインフレ期待値を足したものが、実際に期待されるリターンということになります。

まとめると、

株の期待リターン = (1 ÷ PER)+ インフレ率

ということになります。

試しに米国株のS&P 500で計算してみましょう。

本記事執筆時点のS&P 500のPERが20倍で、FRBが長期のインフレ目標を2%としていますので、

(1÷20)+ 0.02 = 0.07(7%)となります。

確かに、程良い感じがしますね。

債券の期待リターンは最終利回り

債券の期待リターンは投資した時点の最終利回りをそのまま使用すればOKです。

最終利回りの情報は日々変わっていきますので、投資した時点の最終利回りは記録を取っておきましょう。

為替の期待リターンは測定不能

為替(ドル円)の期待リターンは、率直に言って、測定不能です。

というのも、為替は超短期の債券のようなものなので一定の金利収入は期待できますが、価格変動が大き過ぎて、実務に耐えうる期待リターンを計測するのは困難です。

為替ヘッジは必要?

前節で書いた通り、為替は実用に耐えうる期待リターンを計測する方法が無いので、①無視するか、②為替ヘッジするか、を検討することになります。

為替を無視する場合は、投資する資産が為替変動よりも高いリターンを期待できて、期中の為替変動は我慢できるという前提が必要になります。
逆に、為替ヘッジする場合は、運用を少しでも安定させたいので、為替変動が嫌な場合になろうかと思います。

よくあるパターンは、株はリターンが年率7~10%とかで、為替は中長期の期間をとってもせいぜい-10~+10%の幅の中で右往左往することが多いことを考えると、株に2~3年投資すれば為替の変動幅プラマイ10%を余裕で超えていくので、長期投資する上では、わざわざヘッジしなくても良いという判断が一般的です。

一方、債券の場合は、最終利回りが1~2%と低い時期に投資せざるを得ない場合もあり、長期で投資していないとリターンが為替変動に負けてしまうことが多いこと、また、債券にはなるべく安定した運用を期待することが多いですから、債券については為替ヘッジすることが多いです。

ちなみに、為替ヘッジには費用がかかり、その費用は、

対象通貨の国の10年国債の利回り ー 自国(日本)の10年債の利回り

でザックリ計算できます。

例えば、執筆時点の米国10年債利回りはだいたい3.8%、日本10年債は0.5%なので、ドル円の為替ヘッジコストは3.8 ー 0.5 = 3.3%ということになります。

ヘッジ付き外債の期待リターンは日本国債と同じ

為替ヘッジコストの式を見てみると、

外国債利回り ー 日本国債利回り = 為替ヘッジコスト

となっていますが、これを変形し、日本国債利回りと為替ヘッジコストの位置を入れ替えると、

外国債利回り ー 為替ヘッジコスト = 日本国債利回り

となります。つまり、

外国の国債に投資して為替ヘッジすると、期待リターンは日本国債と同じになる

という点は注意する必要があります。

外国債の利回りの方が日本国債よりも大きいからと外国債に投資しても、為替ヘッジしてしまうと日本国債と同じ期待リターンになってしまいますし、為替ヘッジしていないと為替変動に巻き込まれるので、良いとこ取りはできないところは注意が必要です。

その他の資産の期待リターン

リート

リート(不動産投資信託)の期待リターンは、不動産の種類(住宅とかホテルとか)によってまちまちですが、賃料利回りというものを参照するのが世界では一般的です。

ただし、日本語で得られる情報では、その辺の開示があまり親切ではないので、だいたい株と債券の期待リターンの間のどこかぐらいというイメージで良いかと思います。

リートに値上がり益を期待するのもあまりよろしくないので、(健全なリートの運営がなされている前提のもとで)配当利回りを期待リターンと見ても良いでしょう。

コモディティ

コモディティとは、金などの貴金属、原油などの資源、牛とか穀物とかの総称です。

コモディティは、株や債券、リートのように、無からインカムが発生するという性質が無いので、期待リターンの測定ができません。
インフレ率と同じくらいと考えておくのが無難でしょうか。

ヘッジファンド

ヘッジファンドも期待リターンの測定ができません

というのも、一言にヘッジファンドと言っても、投資する資産や取引戦略の種類が千差万別なので、なんとも言えないのです。

ただ、(世界でも極少数ですが)まともなヘッジファンドは、明確な期待リターンを持って運用していますので、ファンド・マネージャーあるいは営業担当に聞けば教えてもらえるはずです。

流動性の高い株と債券だけを扱うヘッジファンドに限れば、株や債券の期待リターンよりも低い水準になることが多いと考えて良いと思います。

これは、ヘッジファンドの性質上、何らかのリスクをヘッジするのにコストを支払っているので、ヘッジせずに持っているよりもリターンは低めになります。
為替のリスクをヘッジするために、為替ヘッジコストを支払っているのと同じような感じです。

期待リターンは大雑把で良い

ここまで期待リターンの簡単な計算手法を紹介してきましたが、個人投資家が期待リターンを小数点以下まで正確に計算する必要はありません

年間のリターンといっても、365日ごとに時点を切り取って騰落を見ているだけなので、年中にも大幅にリターンは変動しています。
ご参考までに、年内にダウ平均株価がどのくらい下落しているかを下記の記事で紹介しています。

また、冒頭述べた通り、よく当たる手法というのも存在していませんので、大雑把に何%ぐらいというのを把握しておけば十分でしょう。

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