2022年は、全世界株式が20%近く下落、債券も15%近く下落し、約1年にわたって両方が同時にここまで下落したのは40年ぶりという、非常にエクストリームな年でした。
何が起きているのか分からず、資産運用していて不安という方も多いかと思います。
本記事では、2022年の株式・債券市場がなぜ下落したのか、事の背景を紹介していきます。すべての国の状況を紹介するのは難しいので、アメリカに絞って見ていきましょう。
下落の背景は2020年の金融緩和までさかのぼる
ことの始まりは、2020年のコロナウイルス感染が急拡大した時まで遡ります。
原因不明、治療不可能の伝染病のまん延を受けて、各国政府は莫大な経済支援を打ち出しました。
この時政府がばらまいた金額は、日本ではGDPの約54%、米国ではGDPの約26%にも登り、過去に例がないレベルとなりました。
まぁ、人類存亡の危機でしたから、仕方ないですよね。
支援金の放出と同時に、アメリカの中央銀行が、市中金利をゼロに引き下げました。
下の図を見ていただくと、2020年に金利がガクッと下がっているのがわかると思います。その後に急上昇しているのは、後で触れます。
データ出所:https://fred.stlouisfed.org/series/FEDFUNDS
企業がお金を借りやすい状況も整え、(瞬間的に歴史的な大失業が発生し、途中多くの企業が力尽きましたが)経済全体で見れば、何とか乗り切ることができたと言えるでしょう。
人々の生活様式は大きな転換を余儀なくされましたが、この事態に目を付けたITサービスや物販のビジネスが急速に発展し始めました。
金利ゼロでお金を借りられるので、新たにビジネスを始める人にとっては大きなチャンスとなったわけです。
そうして、人類の危機から一転、2020年2~3月に大暴落していた株価は年末にかけて急上昇し、投資ブームがやってきました。が、その裏では、政府が巨額な資金をばらまいたことや、人の移動が大きく制限されたことのデメリットも徐々に顔を出してきました。
2021年は好景気で需給のバランスが崩れ始める
2021年は空前の好景気となり、アメリカのGDPはコロナウイルス感染拡大が始まる前よりも早いペースで上昇しました。
アメリカのGDP成長率はだいたい年間2~4%ぐらい伸びるイメージなのですが、2021年は驚異の6%成長と、中国とかインドのような、新興国並みの経済成長となりました。
下の図は実質GDPの推移で、ちょっとわかりにくいですが、2020年に低下した後、2021年の上昇角度が前よりも急になっています。
データ出所:https://fred.stlouisfed.org/series/gdpc1
GDPは、ざっくり言えば、国全体で発生した収入のようなものなので、それだけモノが売れた年になったということです。
しかし、年後半になると、世界中で”密”を避ける形で物流が滞ってしまい、モノの供給が需要に追い付かず、品薄になり始めてしまいました。
コロナウイルス感染拡大初期の頃、マスクが品薄で手に入りにくくなり、価格が高騰した事件(?)があったかと思いますが、あのような価格の高騰が他の商品でも起こり始めたのです。
加えて、アメリカでは失業者への手当が豊富であったことから、コロナウイルス感染拡大で身近に死が迫ったことを機に、自分の人生を見直し、リタイアした人が大量発生しました。
そうして、労働力が不足し、供給できる商品やサービスの量が大幅に減少しました。
話を整理しますと、
①ゼロ金利で資金が余り、相対的にモノの価格が上昇しやすくなった
②物流網がひっ迫したことで商品の製造や供給が追い付かなくなり、モノの価格が上昇しやすくなった
③リタイアしてしまう人が続出し、供給量に制限がかかり、モノの価格が上昇しやすくなった
という状況が整ってしまったのが2021年でした。
2022年2月のウクライナ戦争をきっかけに物価が暴騰
価格が徐々に上昇し始めたところで、2022年2月にロシアがウクライナに進行する事件が発生し、これが決定打になりました。
懲罰のつもりで各国はロシアとの貿易に制限をかけ始め、ロシア産の原油や天然ガスが世界に供給されづらくなりました。
供給量が少なくなれば、当然価格も上昇してしまいます。
現代では、どんな製品でも元を辿ると、水とガソリンが無ければ作れないし運べないわけですから、ウクライナ戦争はありとあらゆる方面に影響し、ついに物価上昇率が急激な上昇を見せ始めました。
下図のデータ出所:
https://www.bls.gov/charts/consumer-price-index/consumer-price-index-by-category-line-chart.htm
3月からFRBが物価上昇の抑制に向けて利上げを開始
2022年3月、FRB(アメリカの中央銀行)はついに政策金利を引き上げて、物価上昇の抑制に動きだしました。
金利を引き上げることで物価上昇を止める仕組みについては別途記事を設けたいと思っていますが、簡単に言えば、金利を引き上げて企業や家計に負荷をかけることで、加熱した消費の熱を冷まし、物価上昇を止めようとしている、ということになります。
お金に困窮して誰もモノを買わなくなれば、どれだけ供給が細くなったとしても、そもそも必要とされていないわけですから、モノの値段も上がらなくなるよね?というロジックです。
言い換えると、FRBが意図的に景気を止めようとしているわけです。
下図のデータ出所:https://fred.stlouisfed.org/series/FEDFUNDS
金利が上昇し、景気後退が想定されれば、当然企業の売上が伸びなくなるわけですから、会社の価値を表す株価も下落します。
反対に、金利の上昇が止まれば苦境も過ぎ去るので、株式市場は「物価と金利はどこまで上がるんじゃ?」ということを様々なデータから探るようになったのですが、物価上昇があまりにもしつこく、金利がどんどん上がっていく(企業の減益の可能性がどんどん増していく)ことが原因で、株式市場の下落につながりました。
また、景気を減速させるために金利を引き上げたわけですから、債券価格の下落にもつながりました。
金利が上がると債券価格が下落する仕組みについてはこちらを参照ください。
株と債券の逆相関が消え、分散投資が効力を失う
よく、株と債券は逆相関すると言われています。
もう少し詳しく言うと、株が下がっている時は債券が上がっており、株が上がっている時は債券が下がっている、という価格が逆方向に動く傾向があると言われています。
株と債券の相関については以下の記事も参照ください。
いつでもこういう関係が成り立つというわけではないのですが、長期的には成り立っていることが多く、債券が安全資産と呼ばれる理由のひとつにもなっています。
この逆相関は、株と債券のリターンは天秤にかけられており、株のリターンが落ちると債券のリターンが相対的に上がる(逆もまたしかり)という風に認知されているイメージです。
もう少しソフトに表現すると、「不景気で株がなんか危ないらしいから、安全な国債の方が良くね?」とか、「好景気で企業はどんどん業績が伸びているのに、国債の2%の金利じゃ微妙じゃない?」というような感じです。
よく「一つの籠に卵を盛るな」と言われるように、株と債券を混ぜて資産全体の価格変動を抑えるのが現代の投資の基本スタイルですが、すべての籠が同時に壊れたという点では、ある意味リーマン・ショックよりも恐ろしい相場だったかもしれません。
これから先どうなる?
正直なところ、いつ、どういうペースで株価が戻るのかはわかりませんが、歴史を紐解くと、物価上昇で景気が悪化するというのはよくあることで、もうすでに攻略された現象でもありますので、それほど心配が要る状況とは思いません。
よく「株・債券はインフレ対策になる」ということを言われます。
2022年も後半に入ると、市場が下がり過ぎて誰も言わなくなりましたが、物価上昇が安定し、金利上昇が安定してくると、
企業が環境に合わせて経営・販売戦略を立て直す
→商品価格に物価上昇を反映させる
→給料水準を上げて(優秀な)人材を雇う
→給料をもらった人はモノを買って消費する
→消費は別の誰かの給料になる
→・・・
という、インフレの影響を吸収した循環が始まり、いずれは経済も正常化が進むと思われます。
こういう循環が始まる予感が見えた時に、株式や債券市場から退出していると、市場の反発を逃してしまいますから、ポートフォリオをよく分散し、余計なことをせずに数年ジッと待っているのが吉でしょう。
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